職場のトラブルQ&A ~競業禁止と退職金不支給~

最終更新日 2009年2月23日ページID 000370

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 私は、美容室に長年勤務したのですが、来月から隣の市で独立開業することにしました。このことを使用者に話すと、就業規則に「従業員は、退職後1年間は同一県内で独立開業してはならない」との規定があり、これに違反するので退職金は全額支給しないと言われました。どうしたらいいでしょうか。
 

 労働者には憲法第22条で「職業選択の自由」が保障されています。ですから、退職後に独立開業したり同業他社へ転職したりして、競合する業務に従事することは、何ら差し支えありません。
 ただし、あらかじめ就業規則などに退職後の競業禁止の規定があり、その内容が必要最小限の範囲であるものや、一定の代償措置が設けられているなど合理的なものであると認められるときには、競業禁止も有効となります。
 しかし、ご質問の就業規則の規定は、競業禁止の合理性に乏しく過度の制約であると思われます。
 なお、仮にその内容に合理性が認められたとしても、退職金の全額不支給が認められるのは、労働者の側に退職金が支給されなくてもしかたがないと認められるほどの重大な背信行為があった場合に限られます。
 以上のことを踏まえて、使用者に退職金を支給してもらうよう求めてみてください。労使間の話合いで解決できないときには、個別的労使紛争あっせん制度が無料でご利用になれます。お気軽にご相談ください。
 

解説

競業禁止について

 競業の禁止が合理的なものか否かは、退職後の業務内容、元使用者が競業行為を禁止する必要性、労働者の従前の地位・職務内容、競業行為禁止の期間や地域、金銭の支払いなどの代償措置の有無などにより判断されます。さらに、この規定については、必要最小限度のものでなくてはなりません。例えば、業務上の秘密などに関係することがないような社員にまで転職に制限を加えるような規定や、退職後10年間もの長期間にわたって同業種に従事することを禁止するような規定などは、認められません。
 競業禁止について争われた代表的な裁判例として次のようなものがあります。

競業禁止を無効とした裁判例

 退職後6か月間は同業他社への就職を禁止されていたが、退職後すぐに元使用者と競合関係にある他社へ就職した。しかし、元労働者らが従事していた業務は単純作業(製品組立)であり、元使用者独自のノウハウがあるものではなかった。また、元労働者らの年収も決して高額ではなく、退職金もなく、競業禁止に関連し何らの代償措置も講じていなかったので、この制限は元労働者らの職業選択の自由を不当に制約するものであり、公序良俗に反し無効であるとされた。(大阪地裁判決 平12.6.19 キヨウシステム事件)

競業制限が合理的な範囲であり有効とした裁判例

 鋳造に用いる特殊な副資材の製造販売に従事していた元労働者は、退職後2年間の秘密漏洩禁止と競業避止の特約を結んでいたが、退職後間もなく元使用者と業務内容や顧客が競合する同業他社の取締役に就任した。元労働者は技術上の特殊な秘密を持っており、元使用者の営業上の秘密を漏洩しうる立場にあり、かつ、在職中には機密保持手当が支給されていたことを考えると、この競業制限は合理的な範囲にあるとされた。(奈良地裁判決 昭45.10.23 フォセコ・ジャパン・リミティッド事件)

競業禁止と退職金の不支給・減額について

 競業禁止との関係で問題となるのは、競業禁止違反を理由とする退職金の不支給や減額です。これらについて争われた代表的な裁判例として次のようなものがあります。

退職金の不支給が認められなかった裁判例

 元使用者から事実上退職に追い込まれた元労働者は、競業関係に立つ広告代理店を開業した。会社の就業規則には退職後6か月以内に同業他社に就職した場合には退職金を支給しない旨の定めがあった。しかし、退職金が労働の対償である賃金の性質を有することや,退職金の減額にとどまらず全額の不支給という、元労働者の職業選択の自由に重大な制限を加える極めて厳しいものであることを考慮すると、退職金を支給しないことが許容されるのは、単に競業禁止違反のみでは足りず、退職従業員に労働の対償を失わせることが相当であるほどの顕著な背信性がある場合に限られるとされた。(名古屋高裁判決 平2.8.31 中部日本広告社事件)

退職金の減額が認められた裁判例

 退職後に同業他社に就職した広告代理店の元労働者の退職金を自己都合の場合の半額としたことについて、会社が退職金規則において競業禁止義務に反した退職労働者の退職金を自己都合の場合の半額と定めることは、退職金が功労報償的な性格を併せ有することにかんがみれば、合理性のない措置であるとすることはできない。すなわち、この場合の退職金の定めは、競業禁止違反の就職をしたことにより勤務中の功労に対する評価が減殺されて、退職金の権利そのものが一般の自己都合による退職の場合の半額しか発生しないこととする趣旨であると解すべきであるから、その定めは、その退職金が労働基準法上の賃金にあたるとしても、違法ではないとした。(最高裁判決 昭52.8.9 三晃社事件)
 

参考

 

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