職場のトラブルQ&A ~退職社員に対する研修費用の返還~

最終更新日 2009年2月19日ページID 000352

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 当社の新入社員の中には、新入社員研修が終わってすぐに辞めてしまう人がいます。今後それを防ぐためにも、研修後一定期間以内に退職した場合は研修費用を返還してもらう契約をしようと考えています。問題ないでしょうか。

 労働者が退職する際に会社が労働者に対し研修費用を返還させることができるかどうかは、その契約が労働基準法第16条に違反するか否かという点から判断されます。同条では、労働者が退職する場合などに、使用者が違約金を定めたり、損害賠償の請求を予定する契約をすることを禁止しています。
 ご質問の契約が同条に違反するかどうかは、契約の内容、業務命令であるか否か、研修の実態(性質)はどのようなものか、といったことから総合的に検討する必要があります。
 研修の実態が新入社員教育のように使用者として当然行うべき性質のものである場合に、研修後一定期間の勤務を約束させ、その期間内に退職した場合に、その研修費用の返還を求めることには、合理性がないと判断されています。
 もちろん、研修費用を返還しないかぎり退職を認めないとすることも違法となるので注意が必要です。

解説

 労働基準法第16条では「使用者は、労働契約の不履行について違約金を定め、又は損害賠償を予定する契約をしてはならない。」と定めています。もしこのような契約を許せば、労働者が違約金や賠償予定額を支払わされることをおそれ、雇用関係の継続を事実上強制されることになりかねません。この条文はそのような契約を禁止し、そうした事態が生じることを防止するために設けられています。
 また、研修費用の返還について争われた代表的な裁判例として次のものがあります。

一般的な研修費用の返還が認められなかった判例

 美容室を経営する会社に職種を美容等とする社員として就職した従業員が採用後7か月後に退職したことに対し、同従業員が会社と契約した「会社の美容指導を受けたにもかかわらず、会社の意向に反して退職したときは、入社時に遡って1か月につき4万円の講習手数料を支払う」という契約に基づき、会社が退職した従業員に対し講習手数料として30万円の支払いを求め提訴した。
 判決では、本契約における従業員に対する指導の実態は、いわゆる一般の新入社員教育とさしたる差がなく、使用者として当然なすべき性質のものであるから、それに支出された研修費用の返還を求めることには合理性がなく、労働者の退職の自由を奪う性格を有するものであり労働基準法第16条に違反するとした。(浦和地裁判決 昭61.5.30 サロン・ド・リリー事件)

海外留学費用の返還が認められた判例

 建築工事請負等を業とする会社が、社員留学制度を設けていた。その留学制度には、①渡航後は必ず学位を取得し卒業する、②卒業後は、直ちに帰国し、会社の命ずる業務に精励する、③帰国後一定期間を経ず特別な理由なく退職することとなった場合会社が支払った一切の費用を返還する、という旨の誓約書を留学前に差し入れることが条件となっていた。
 会社は、留学して帰国後2年5か月後に退職した元従業員に、留学費用(渡航関係費、学費及び特別手当)のうち学費の返還を求めた。それに対し元従業員は、会社と元従業員との社会的地位の強弱、資力その他を総合考慮すると返還義務の範囲は信義則によって制限されるべきであると主張して提訴した。
 判決では、この留学制度は会社の人材育成施策の一つではあるが、その目的は大所高所から人材を育成しようというものであって、留学生への応募は社員の自由意思によるもので業務命令に基づくものではない。その一方、留学社員にとってはその会社で勤務を継続するか否かにかかわらず、有益な経験、資格となる。従って、この留学を業務と見ることはできない。留学費用を会社が負担するか従業員が負担するかについては、労働契約とは別に、当事者間の契約によって定めることができるものである。この件において会社と元従業員が締結した契約は、一定期間勤務した場合には返還を免除する旨の特約付きの金銭消費貸借契約であって、労働基準法第16条には違反しないとし、会社の返還請求が認められた。(東京地裁判決 平9.5.26 長谷工コーポレーション事件)

 

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